2009年05月07日
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オルランドと100Kクラス戦艦

Written By: 遠野秋彦連絡先

 オルランド宇宙艦隊において「戦艦」と分類されるのは100Kクラスと称される全長約100kmのバトルシップである。

 しかし、滅多に外部の者の目に触れることはないために存在を知る者は少なく、しかも知っていても誤解していることが多い。

 実は本当の意味で戦艦と呼べるのは全長約100kmのうち70kmの部分でしかないし、設計コンセプトは実は戦艦ではなく移動可能な防御要塞の構成パーツでしかないからだ。

 だが、誤解されるのも至極当然と言える。100Kクラスとは、成立の経緯からして混乱と紆余曲折の塊であり、実際の運用もかなりねじれているからだ。

 そもそも、この100Kクラスとはどのような経緯で誕生したのだろうか。

 そのスタートラインは、人工惑星の建造まで遡る。

 対ベーダー戦において最強の移動根拠地として建造された人工惑星も、問題が無かったわけではない。

 1つは、活発に利用される区画が表面に近い場所に限られたことだ。人工惑星は地下深くまで全て多目的に利用できる区画に区切られていたが、外部との人や物資の移動に便利なのは表面近くに限られた。そのため、深い場所は倉庫や工場に使われることが多く、大多数の活動拠点は表面近くに設置されていた。それは、攻撃に対して極めて脆弱であることを意味する。広域攻撃兵器で人工惑星の表面を軽くなでるだけで、連合防衛軍は完全に麻痺してしまう恐れがあったのだ。

 もう1つは、人工惑星の機動性があまりにも低すぎ、しかも1つしか無いことだった。迅速に交戦地域に進出し、支援を与えることができないばかりか、それが複数になれば対処できなくなってしまう。

 この2つの問題は当初別個の問題として対処が検討された。第1の問題は、人工惑星の表面を更に外側から覆う外郭防衛要塞構想につながり、第2の問題は2Kクラスのバトルクルーザーを10隻以上格納して整備補修までできる全長30kmの巨大都市母艦構想につながった。

 しかし、どちらの計画もすぐに壁に突き当たった。対ベーダー戦を遂行中であり、しかも巨大な人工惑星を建造した直後である。資材も、資金もあまりに不足しすぎていた。

 外郭防衛要塞は資源節約のため、人工惑星全体を覆うのではなく、ハブとスポークから構成される網状の構造物として計画を立て直された。スポークの隙間は広く、通行可能だが、スポークの火力を集中させれば通過しようとする敵艦は沈められると考えられた。

 しかし、この計画にはすぐに疑問が突き付けられた。それだけの火力を、発生するかどうかも分からない人工惑星防衛戦まで眠らせておくのは惜しいというのである。ならばハブとスポークには航行可能なエンジンを付け、いざという時に必要な箇所に展開可能としてはどうかという意見が出た。

 これは当時のオルランドには極めて魅力的だった。なぜなら、この方法を採れば人工惑星全体を覆うハブとスポークを建造せずとも、敵が来る方向にだけ展開できる量があれば防衛可能だからだ。必要な方向に必要な量を展開できるとは、そういう意味で魅力的だったのだ。

 更にここで2つの計画が相乗りする。まず、想定されたサイズや性格が近いということで、巨大都市母艦構想がハブと相乗りする。巨大都市母艦はハブとして機能するように設計を改変され、凍結されていた具体的な建造計画が動き出した。

 そして、2Kクラスを上回る後継戦艦を模索していた設計グループが、スポークの計画に相乗りした。実は彼らも閉塞的な状況に立たされていた。2Kクラスは十分に強力であり、かつ、製造メンテナンスのシステムも整備されていたので、後継艦は望まれていなかったのだ。彼らが自分たちの存在意義を示すためには、2Kクラスの後継艦ではなく、別次元の戦艦を造ってみせねばならなかった。全長70kmで圧倒的な火力を持つスポークは、まさにその条件を満たした。彼らは、起死回生の策として、必死にスポークを戦闘艦として再設計した。

 その結果出来上がったのが、外郭要塞の構成パーツにして100Kクラス戦艦という折衷的なモンスターであった。

 スポークはBS(バトルシップ)部と呼ばれ、全長約70kmの細長い円筒形状となった。圧倒的な火力と防御力を誇る最強戦闘艦となった。ハブはBC(ベースシティ)部と呼ばれ、直径約30kmの円盤状となった。10隻以上の2Kクラスバトルクルーザーを収納し、補修や整備ができる他、乗組員に休養を与える都市としても機能した。

 この2つを接続したものが100Kクラスと呼ばれるが、もちろんいざ戦闘となればBSは切り離されて単独で戦場に乗り込み、BCは後方で補給拠点として機能することになる。

 主要な100Kクラスには大陸や超大陸の名前が与えられ、パンゲア、ゴンドワナ、ローレンシアなどの名を持つ艦が就役したことが分かっている。これらは名前の後ろにBCやBSを付けて、各部を区別して呼ぶ。パンゲアBCやローレンシアBSといった名前はそれを意味する。

 しかし、各艦は独立した存在ではない。BCには角度として120度ごとにBSとの接続ジョイントを持ち、BSも前後の双方にBCとの接続ジョイントを持っていた。これらをフル活用することで、6つのBCと6つのBSによって六角形の防衛ハニカムを構成することができた。更に複数の100Kクラスが集まると、この防衛ハニカムは拡大することができ、防衛すべき地域全体を覆うことが可能となる。もちろん、最終的には人工惑星全体を覆うだけのBCとBSを建造することが目標として定められていた。そして、最終的にそれだけの量のBCとBSは建造されたと言われるが定かではない。

 一説には、人工惑星の1/3を覆うだけのBSとBCが揃った頃に、人工惑星の者達はやっと安堵したという。それまでは、けして安全を確信できなかったのだ。

 そして、100Kクラスこそが人工惑星を守る最強の守護者であると誰もが頼ったという。

 だが、100Kクラスが成功したのかといえば、必ずしもそうとも言えない。

 まず、攻撃にも防衛にも使う装備は、防衛に懸念がある限り、攻撃用に出撃させることができない。つまり、多数の100Kクラスを保有していても、それを積極的に前線に投入できないのである。結果として、対ベーダー戦において100Kクラスを戦艦として運用できたケースは非常に少ない。つまり、攻守両用だから高く付いても建造する価値がある、という理屈は結果として成立しなかった。

 そして、更に問題となるのは、人工惑星に対する直接攻撃は実際には発生せず、発生する可能性も極めて低かったという事実がある点だ。連合防衛軍の宇宙艦隊は人工惑星の周辺に広域パトロール網を構築しており、接近する敵艦は早期に排除されてしまう仕組みが出来上がっていた。緊急呼集によって人工惑星に在泊中の艦が揃って飛び出せば、まず大抵の攻撃者は人工惑星の外郭要塞を見る前に撃退されてしまうのである。外郭要塞は最後の切り札である以上、それを使わずに済めば済ませるのが基本的な考え方である以上、外郭要塞に頼って迎撃しないという選択肢はあり得なかった。

 つまり、莫大な資源、労力、コストを投入して建造されたにも関わらず、100Kクラスは対ベーダー戦において何ら決定的な役割を果たし得なかったのである。

※ 念のために補足すると、都市と戦艦を合体させるという構造はマクロス7に酷似しているように見えるかも知れないが、100Kクラスの設定を思いついたのは1970年代後半である。7ではないマクロスすらこの世に存在しない時期である。「オルランド」シリーズは、子供時代に考えた妄想を具体的に文字化するというコンセプトであるため、あえてマクロス7と似ていることを承知した上で、設定を変更せずに過去に考えた基本構想に対して忠実に記述している。

(遠野秋彦・作 ©2009 TOHNO, Akihiko)

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